あやかし秘抄 序話(2)


「詩乃さんも、来た頃は大変だったでしょう。超がつくほどの田舎暮らしで」
 お茶を入れている若い主の妻に話しかける。
「あら、サバイバルみたいで楽しかったですよ。空気もおいしいし」
「ともあれ、冬になる前に落ち着けてよかった」

 秋の深まる季節。日暮れともなると、戸外は深々と冷え込んでくる。
 いろりでは、鍋がぐつぐつと煮え、湯気は垂木にまとわりつきながら、高い天井へと立ち昇ってゆく。
 庭先に突然、けたたましいクラクションを鳴らしながらジープが止まった。
 ロン毛を後ろでしばった眠そうな男と、紫のメッシュを入れた、これまた派手な老嬢が、たくさんのスーパーの袋をかついで入ってきた。
「みんな、来たわよーっ」

「まったく、東京から何時間かかったと思っているの」
 老嬢は、へたへたと新しい畳の上に座り込む。
「これじゃ首都に危機があっても、すぐに駆けつけられない。来年は絶対に予算を取って、ここにヘリポートを作りますからね」
 彼女の名は、鷹泉(ようぜん)孝子。霞ヶ関の内閣府本府、特別調査室の長である。

「龍二くんも仕事のほうは落ち着きましたか」
「ああ、東京との往復もようやく終わったよ」
 男のほうは、夜叉追いのひとり、矢萩龍二。鉄鋼会社の研究室勤務。この春から愛媛の本社に転勤、以来、週末は必ずこの家を訪れる。
「これで、『久下心霊調査事務所』のメンバーが全員そろいましたね」
 いろりを囲み、彼らは互いに微笑み合った。


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