あやかし秘抄 第二話(1)


第二話「ぼとる」

 詩乃の話が終わると、
「ああっ。どこが、『いとしい夜叉』の話なんだ。結局ノロケじゃねえかよ!」
 龍二はバタンと、大の字にひっくり返った。
 いろりで火照った体を、畳がひんやりと迎えてくれる。
 田舎育ちの彼にとって、この家は、とてもなつかしい匂いがする。木の匂い、ワラの匂い、火のぱちぱちと燃える匂い。
 目を閉じて、ひくひくと心地よさを堪能していたら、突然甘ったるい匂いが鼻をついた。
「うほほーい。うまそうに焦げとるわい」
 草薙と孝子が、火箸にマシュマロを刺して焼き始めたのだ。
「はい」
 詩乃がお茶のおかわりを、みんなに注いで回る。
 彼女がいろりばたを動くと、かすかなシャンプーの香りがした。
 詩乃の香り。
 それは龍二にとって、何よりもなつかしく、心痛む香りだ。
「そうだ。みんな、頭洗うときは何を使ってる?」
 唐突な問いに、一同はきょとんとした。
「私は、普通のシャンプーとコンディショナーと、トリートメントだけど?」
「右に同じ」
 女たちは口をそろえる。
「僕は、カラーリング用のシャンプーですね」
「……石鹸だ」
「わたしは鋼じゃから、シャンプーなんぞしたことないわい」
「龍二くんは長髪なだけに、かなり気を使っていそうですね」
「ところが、そうでもなかったんだ」
 龍二は起き上がって胡坐をかき、にやりと笑った。
「シャンプーの好きな夜叉の話、聞かせてやろうか」


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