あやかし秘抄 第三話(1)


第三話「すずめ」

「それで結局」
 鷹泉孝子が、ねちねちと尋ねた。「そのシャンプー幽霊は今でもいるの?」
「いるわけないだろう。ちゃんと、あの世に行かせた」
「ふうん。いたら、さそがし楽しいお風呂タイムを過ごせるでしょうに」
 龍二は心なしか顔を赤らめた。実際、女の幽霊がいた数週間は、風呂の時間がひそかな楽しみだったのだ。
「ま、俺の話は終わった。次は誰だ」
「それでは、わたしが話してしんぜよう」
 白狐の草薙が、ふさふさの尻尾をぴんと立てた。
「統馬とわたしは、いつも旅をしていた。体内に夜叉を隠し持ち、十七歳のまま年を取らなかった統馬。腰に帯びているのが、霊剣、天叢雲(あめのむらくも)と、刀鍔の草薙。
そこに、僧侶慈恵が、幾度も転生を重ねては加わった。言うまでもなく、久下尚人(くげなおと)とは、慈恵から数えて五代目の生まれ変わりであるぞ」
「そんなこと、いちいち説明しなくても、ここにいる連中は、みんな知ってることじゃないか」
 龍二が、うんざりしたように言った。
「黙れ、弟子。たとえ誰が相手でも、枕詞から結語まで、きちんと体裁を整えるのが、話術というものじゃ」
「だから、草薙の話はいつも、やたら長いんだ」
「今回は短くするぞ。なにせ、『掌編しりーず』じゃからな」
 つぶらな黄金の瞳をくいと天井に向け、ひとり舞台の俳優のようなポーズを取って、草薙は話し始める。
「基本的には、われら三人の隣に誰かが並んで歩くことはなかった。しかしもちろん、例外はある」


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