あやかし秘抄 第四話(8)


「ふっふっふ、それで」
 龍二は四つんばいになって、よだれを垂らさんばかりに孝子の前ににじりよった。
「統馬とは、それからどうなった?」
「なーんにも。私は約束どおり、総務省に入省して必死で働いたわ。キャリアを積み、今の調査室を開いて、夜叉追いを影から助けるために」
 孝子はふくよかな頬をぷっと膨らました。「その間、統馬は思い出したようにしか会いに来てくれませんでしたよ」
「ちぇっ。みんな肝心な点になると、口が堅いな。せっかく統馬の四百年にわたるハーレム疑惑を証明できると思ったのに」
 統馬は立ち上がると、龍二の馬のしっぽのような後ろ髪をぐいと力まかせに引っぱった。
「いてて」
「くだらないことを言ってないで、もう寝ろ。俺は牛や鶏の世話で朝が早いんだ」
「そういえば、いつのまにか、こんな時間だったんですね」
 久下もあわてて立ち上がる。
「でも、まだ久下さんの話も、肝心の統馬の話も聞いてないぜ」
「続きは明日の夜ということにしましょう。孝子さんも龍二くんも、もう一晩泊まっていけるんでしょう」
「もちろんよ」
「それじゃ、客間にふとんを敷きますね」
 詩乃が手早く湯のみやコップを片付けながら、言った。
「それくらい自分でしますよ。それより、東京のおいしいパンを買ってきたの」
「うわあ。うれしい。じゃあ明日の朝はパンとコーヒーにしましょうね」
「龍二は、わたしたちといっしょに来い」
 草薙は、ちょちょいと尻尾を振った。「まだ聞き足りないようじゃから、夜通し話してやるわい。おまえの知りたそうな話を」
「あはっ。そりゃ楽しみだ」
 夜叉追いたちの夜話会はひとまずお開きとなり、それぞれの自室に引き取った。
 だが、彼らが再びいろりばたに集まるまでには、またいろいろと椿事が起こることになる。

(四話終 ―― 五話へ続く)


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