あやかし秘抄 第六話(1)


第六話「きょうしつ」

 昼過ぎに、またひとり客が増えた。
「な、なんで、こんな山奥を住み家に選んだんだ」
 大荷物を持ってよろよろと縁側にへたりこんだ大柄の男は、神林修だ。
 元二年D組、統馬と詩乃の同級生で、在学中は超常現象同好会の会長だった。
 今でもチャネリングやUFOといったものに目がないが、日本史担当のれっきとした高校教師である。しかも、今年の春から彼らの母校T高へ転任したばかりだ。
「ほら、委員長。自由が丘のクッキーだ」
 人妻になった詩乃のことを今だに「委員長」と呼ぶのも、彼なりのこだわりがあるらしい。
「わあ、ありがと。おいしい紅茶を入れるわね」
「こっちの袋は、安倍川餅とうなぎパイ。ういろうに生八つ橋」
「おまえはまた、東海道の土産を全部買ってきおったのう」
 草薙が呆れたように言う。
「小太郎、藤次郎。大きくなったな」
 神林は、統馬と詩乃の幼い息子たちに痛そうなヒゲ面をすりつけ、
「おお、わが師よ」
 今度は統馬を見つけると、暑苦しい巨体を揺らして突進する。「俺から逃げようったって、そうはいかないんだからな」
 統馬はいかにも迷惑そうな顔で迎えるが、本当はそれほど迷惑に思っていないことは、誰もが知っている。
 神林は、卒業後もずっと統馬を霊的覚醒の師として崇め、つきまとっている。夜叉追いたちの事情にも、いつのまにか通じるようになった。
 統馬がかつて夜叉だったことも、久下が江戸時代からずっと転生を重ねていることも。
 龍二が矢萩家の跡取りとして統馬を助ける宿命にあることも、孝子が政界から夜叉追いを支援していることも、もちろん白狐の草薙が、元は平安時代に生きた陰陽師であったことも、全部知っているのだ。


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