あやかし秘抄 第六話(2)


「T高は、今どんな感じなの?」
「あのボロい体育館が改築されて、ずいぶん感じが変わったぞ」
 いろりばたでクッキーと紅茶を楽しみながら、彼らは久しぶりの母校の話に花を咲かせた。
「昔ほどひどくはないけど、やっぱり不登校やいじめはなくなってない」
 と溜め息をつく神林は、高校時代とちっとも変わっていないように見えて、やはり教師なのだ。
「転任早々、問題山積みのクラスを担任させられてさ。夜遅くまで走り回って、へとへとの毎日なんだ」
「適任なんじゃねえか。そういうハードな生活は、彼女持ちには絶対に無理だからな」
「なるほど、だから俺に……って何を言わせるんだ」
 理系の龍二とニューエイジ系の神林は昔は犬猿の仲だったが、なぜか今はウマが合うらしい。
「ところがだ。家庭訪問中にとんでもなく不思議な超常体験をした」
「不思議って?」
「ひきこもりの男子生徒を訪ねたんだ。俺が担任になった四月から、一度も登校してない。母親によると、自分の部屋にバリケードを築いて、誰も入れないって言うんだ」
「げっ。メシや風呂は?」
「食事はお盆に載せて、母親が置いておくと食べるそうだ。トイレはポータブル。ほんのときたま、家族が寝静まった夜に風呂を浴びてるらしい」
「……なんということじゃ」
 草薙がふさふさの尻尾をしおれさせて嘆息した。「空の色も花の香も知らず、自分が作り出した牢獄の中に自らを閉じ込めてしまうとはのう!」
「俺は、その男子生徒の部屋のドアの前で熱く語った。家族の思い。友情の大切さ。人生の素晴らしさ。650万年前に金星から人類を救いにいらした護法魔王尊の有難さ――」
「おい、待て。そんな話聞いたら、ますます別の世界に行っちまうだろうが」
「中からは何の答えもなかった。俺は半ばあきらめ気分で、ドアのノブを回した。そしたら――開いたんだ!」


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