あやかし秘抄 第七話(1)


第七話「たわー」

 陽が西の山の端に隠れる頃になると、囲炉裏ばたの円座が、ひとつ、またひとつと埋まり始めた。
 自在かぎに吊るされた鍋がぐつぐつと煮え、胃の腑を刺激するような匂いをふりまいている。白い煙が吹き抜けの天井にゆっくりと立ち昇り、屋根裏全体に回って真新しいカヤをいぶす。
「さあ、食べましょう」という詩乃の合図で、にぎやかな夕餉が始まった。女主人は、それを満足げに見渡しながら、ときおり空の茶碗を受け取っては、お櫃のご飯を山盛りによそって返す。
 両親不在の寂しい家庭で育った詩乃は、にぎやかな食卓というものに何よりもあこがれていた。
 愛する夫とふたりの息子と、友人たち。やがてここに、新しい家族と新しい友人たちが加わり、もっともっと囲炉裏ばたは、にぎやかになっていくのだろう。
「聞いたところによると、ゆうべは昔話で盛り上がったんだって?」
 夕飯の後片付けがあらかた終わったころ、神林が、少し羨ましそうな声をあげた。「今夜も続きをやるんだろうな。俺は昼間、高校の話をしたから、今度はみんなの話を聞かせろよ」
「ええと、まだ一度も話してないのは?」
 詩乃は、鉄瓶から急須に湯を注ぎながら、一同を見渡した。「統馬くんと久下さんのふたりだけ?」
「とうとう、この日が来た」
 矢萩龍二は、じーんとこみ上げる感動をかみしめた。
「ふたりの口から、今宵ついに隠されていた真相が明かされる。時を越え、性別を越えて、二百年間はぐくまれてきたのは、友情なのか、はたまた燃えるような恋なのか」


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