あやかし秘抄 第八話(5)


 小太郎はしゃがみこんで、手のひらの上で紙を剥いてやり、中身を口に入れてあげた。
 少年の片頬がぷくりとふくれる。
「おいしい?」
 小太郎は自分が食べたいのも忘れて、彼がもぐもぐと口を動かすのを熱心に見入った。
「小太郎」
 母親の声に、あわてて立ちあがって振り向いた。
「ねえ。ほら」
 新しい友だちを、母と草薙に紹介しようとして指差したとき――小太郎ははじめて気づいた。
 少年の姿はもう、どこにもなくなっていることに。

 それから数日して、新聞を読んでいた母がわっと泣きだした。
「ひどい。ここからすぐ近くの町じゃないの」
 その五歳の男の子は、病院に運び込まれたときには、すでに事切れていた。死因は栄養失調。母親と義理の父親に、せっかんの末に家の中に閉じ込められ、食事も満足に与えられなかったため、痩せ細って二歳児の体重しかなかった。
 その話を母から聞いたとき、小太郎は、それはスーパーで会ったあの子のことだと言い張った。そんなはずはない、閉じ込められて何ヶ月も家から出られなかったのだからと諭しても、絶対に考えを変えなかった。

 あとで聞けば、救急隊員がその子の家に駆けつけたとき、男の子の手には、キャラメルの包み紙がしっかりと握られていたという。
 そして司法解剖の結果、死んだ少年の胃の中には、たった今食べたばかりと思われる、溶けかけたキャラメルが入っていた。

(八話終 ―― 九話へ続く)

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