インビジブル・ラブ(141)

「あんたも、ここのヤツか」
「まあ、留守番代わりじゃ。して何の用かな?」
「こいつらに、成仏でも昇天でも何でもいいから、あの世への行き方を教えてやってくれ」
「ほほう。父娘の幽霊とは、めずらしい」
「頼んだぞ。じゃあな」
「あ、ちょっと待て」
 トボけた顔の狐は、俺を呼び止めて、まじまじと見た。
「おぬし、うまく邪念を克服したようじゃのう」
「え?」
「覚えておらんか。『はざまの世界』の池のほとりで、会うたじゃろう」
「あ、あんた。まさか、あのミヤビな平安貴族か?」
「草薙(くさなぎ)と申す。以後お見知りおきを」
 ピアノ線みたいヒゲを震わせながら、白狐は愉快そうに笑った。

 困ったことは、もうひとつある。
 愛海のヤツ、俺が戻ってきたとたんに、また、ぐーたら女に戻ってしまったのだ。
 朝はいくら起こしても起きないし、フー公の世話は俺にまかせっぱなし。
 元の木阿弥とは、このことだ。
 俺に、美容液を顔にたっぷり塗らせながら、
「ああん、気持いいっ。淳平のフェイシャルマッサージ最高」
 と甘えた声を出してみせる。
 惚れた弱みにつけこんで、こきつかいやがって。俺は、世界一かわいそうな幽霊だ。
 まあ、でも。
 世界一幸せな幽霊も、俺なのかもしれねえな。


       第四章 終



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