インビジブル・ラブ(147)

「ねえ、淳平には、やっぱり犯人の心当たりはないの?」
 この一年の同居生活の中で、何十回訊かれたかわからない問いだ。
 俺の頭の中からは、殺されたときと、その前後の記憶がすっぽり抜け落ちてしまっている。ずっと思い出す努力はしているのだが、ダメなのだ。
 自分が殺された現場へ行ってもみた。
 愛海に手伝ってもらって、殺人の状況を再現した。いわゆるショック療法というヤツだ。
 もっとも、効果はさっぱり。かえって愛海のほうが、血だらけの現場を思い出して気分を悪くした。
 こうなると、もう俺には打つ手がない。だいたい脳細胞なんて、とっくに灰になっちまった身だ。どうやって記憶を呼び覚ませばいいかも、わからないもんな。

 予定どおり、俺たちは映画館に入った。
 ちょっと前に視聴率が高かったTVドラマの映画バージョン。刑事モノだ。
 テレビのスペシャル版で事件の発生部分を描いておいて、いいところでちょん切る。あとは映画館で解決編を見てくれという作りだ。
 愛海は子どもの頃から刑事ドラマが大好きで、それで刑事を目指した女だ。この手の映画を見たがらないはずはない。
 ひとりの料金を払って映画館に入ると、愛海は紙バケツ入りのポップコーンをふたり分買った。並んで空いている席を見つけて、肘掛けのホルダーにそれぞれを置く。そうすると、もう愛海の隣には誰も座れない。
 そうやって、俺の座る席を確保するのだ。俺は空中に浮いていてもかまわないが、それだと愛海が落ち着かないらしいからな。
 もちろん、ふたり分のポップコーンをたいらげるのは、愛海の役目だ。


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