インビジブル・ラブ(149)

「有名な人じゃない。こないだも、報道番組のコメンテーターとしてテレビに出てたよ」
「ああ」
 高見リカコは、女優だった経験とコネを生かし、俳優プロダクションを立ち上げて成功した女だ。
 もう40をとっくに過ぎているが、若い頃の美貌はいまだに衰えていないし、独特の辛らつなコメントも定評を得ている。
「その高見社長が、どうして淳平を殺す動機があるの?」
「俺は昔、高見プロダクションの新人女優をカモに、詐欺を働いたことがあるんだ」
 愛海は、それを聞いて「へっ?」とすっとんきょうな声を出して、舗道で立ち止まった。
「初耳だよ」
「もうかれこれ七年も前の話だ。俺もすっかり忘れていた」
「新人女優って誰?」
「工藤麻季」
 愛海は、「ひゃあ」という悲鳴を上げて、両手でバンザイのポーズをした。
「有名な女優じゃない!」
 道の真ん中でひとり騒いでいる愛海を避けるように、往来の人波がざざっと分かれた。

 とりあえず俺たちは、ゆっくり話ができる店に入ることにした。
 選んだのは、パスタ専門のカジュアルレストラン。駅の構内にあって、BGMがそこそこ大きく、愛海がひとりでぶつぶつ言っていても、誰も気味悪がらない。
 愛海は刺身スパゲティ・パイナップル風味という珍妙なメニューをオーダーした。
 いつも思うんだが、こいつの食べ物の好みは、ときどき俺の理解を超えている。
 ウェイターがいなくなると、「さあ」と俺を怖い目でにらんだ。
「あらいざらい、しゃべってちょうだい」
 愛海が必死になるのもわかる。事件から二年も経って、捜査が暗礁に乗り上げようとする今、まったく新しい容疑者の名前が浮かび上がってきたんだからな。


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