「背中から刺されたと新聞に書いてあったけど、苦しんで死んだのかな」
「いいえ……ほとんど即死状態だったと、聞いてます」
「あ、そうか。部署が違うと、あまり詳しくはわからないわね」
「……」
「彼はね。実は」
麻季は、マニキュアを塗った指でハンドルを回した。絶妙のステアリングだ。
「私の恩人なの」
「恩人?」
何を言い出すんだ、こいつは。自分を騙した結婚詐欺師を、恩人だって?
「うーん。どう説明したらいいかなあ」
麻季は首をかしげて、片手でうなじにかかる髪の毛をはらった。
「まあ、ぶっちゃけて言うと、昔、彼とつきあったことがあるの」
「えっ」
「結局お金は取られなかったから、被害届も出してないんだけど。一時は本気になったものよ」
楽しそうに、くすくすと笑う。
「そうだったんですか」
自分から告白を始めた麻季に戸惑いながら、愛海は訊ねた。
「淳ぺ……水主さんって、どんな人だったんですか」
「カッコよかったわよ。自分の魅力を知ってて自信家で、でもナルシストじゃないの。いつも、先回りして私の気持をわかってくれて」
「なるほど」
「要するに、女が女であることに酔わせてくれる男、っていうのかな」
「ほんとに、そうですよねー」
「え?」
「い、いえ。なんでもありません」
「結局は、お金のための演技だったと後でわかって、悲しかったけど」
麻季は少しだけ、唇をきゅっと噛みしめた。
「私はいっとき、彼のお芝居に見惚れていた観客だったのかもしれない。そう考えると、いい時間を過ごしたわ」
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