インビジブル・ラブ(2)

 地下鉄の階段を登りきったところにあるフラワーショップで、小潟愛海(おがた・あいみ)は白いトルコキキョウとデルフィニウムの小さな花束を買った。
 今日は、水主淳平(みずし・じゅんぺい)の一周忌だ。
 確か親戚が北陸にいた。はとこか何かと言うだけだから、まともに法事をしてもらえなかったかもしれない。
 一年前、水主は繁華街の路地裏で殺された。悪人にふさわしい、ひどい死に方だった。
 いわゆる結婚詐欺師。甘いことばをもって女性に近づき、結婚をエサに女に貢がせる。金だけしぼり取って、突然姿をくらます。殺されてもいいとは言わないが、少なくとも殺されて文句は言えない、そんな男だった。
 警察に出ている被害届だけでも、片手に余る。被害届を出さずに泣き寝入りしている女性もいるはずだ。
 結局一年近く経って、捜査は完全に暗礁に乗り上げた。
 最初は160人体制が敷かれた捜査本部も縮小されて今は30人。専従捜査員は、もうすぐ定年を迎える木下警部補と、愛海のふたりだけとなっていた。
 「現場百回」が口癖の上司に連れられて、この一年で何度この現場を訪れただろうか。それでも路地裏に入るときは、いまだに一瞬ためらうのだ。
 凄惨な殺害現場。当時まだ新米刑事だった愛海には、あまりに過酷な洗礼だった。
 吐くなよ、と傍にいた木下に声をかけられたが、それよりもっとひどい醜態をさらした。
 その場で失神してしまったのだ。それも、倒れたときにスカートのすそがまくれ上がり、大勢の警察官に花柄のパンティを拝ませてしまうというオマケつきで。


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