第二章
まるで水槽に沈むガラス玉みたいに、俺の身体は朝の光の中では薄い蒼に溶けている。
そんな俺を見ることができるのは、この世でただひとり。今この部屋のベッドで、気持良さそうに眠りをむさぼっている女だけだ。
名前は、小潟愛海(おがたあいみ)。南原署の捜査一係の刑事。
そして、俺は彼女の担当する殺人事件の被害者。水主淳平(みずしじゅんぺい)。
俺の持つ『霊指』という奇妙な能力が、死後の『はざまの世界』にいる俺と、この女とを結びつけた。彼女は、俺をこの世につなぎとめている、ただひとつの結び目だ。
俺はじっと愛海の寝顔を見つめた。何かいい夢でも見ているのか、にへらーと笑う。半開きにした口から、糸のようなヨダレがツーッと流れてきた。
まったく百年の恋も冷めるとは、このことだ。顔が可愛いだけで、ドジで思い込みの激しい、どうしようもない女。俺ともあろうものが、こんなヤツに惚れてしまうとは。
生きているとき、俺は結婚詐欺師だった。
どんなにいい女でも、俺の目には獲物でしかなかった。自分の持てる力を尽くして挑む、命がけのゲーム。けれど相手の心と金を奪い取ったとたんに興味を失ってしまう。
もしかすると、死んでしまってからはじめて、俺は本当の恋をしているのかもしれない。
神様というのがこの世にいるなら、なんて皮肉なことをするヤツだろう。
おっと、そんなことを考えている場合じゃねえ。
もうすぐ愛海が起きる時間だ。コーヒーを沸かしといてやらなきゃ。猫舌の愛海にとって、いれたてのコーヒーは熱すぎるのだ。
なんで、こんなことまでしてやらなきゃいけないんだか。まるで自分が、アラジンのランプの精にでもなったような気がする。
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