第三章
幽霊の朝は早い。
……笑い話じみているが、本当のことだ。
六時ちょっと前になると、俺はネコ缶を開けて、でっぷりとした三毛猫の皿に入れてやる。
少しでも遅れたら、こいつがまたカリカリカリカリ、ソファの背板をひっかいて、うるさいのなんのって。
エサの準備が整うと、ふんぞりかえって待っていたフー公は、のしのしと近づいてきて食べ始める。そのふてぶてしさはハンパじゃない。
俺のことをライバルか何かと思っているらしい。それもそのはず、こいつは三毛猫のくせにオスなのだ。
愛海の膝を独り占めしたときは、さも勝ったという顔をして俺を見ていやがる。
腹が立って、しっぽや鼻を思い切りつまんでやると、世にも恐ろしい叫びを上げて俺に飛びかかってきて、すかっと壁に衝突している。
まあ、なんだかんだ言って、俺もけっこう楽しんでやっているのかもしれない。
出勤か非番かにもよるが、だいたいは六時半になると、愛海のためにコーヒーを沸かしてやる。
この頃は、俺の『霊指』の能力も向上してきて、コーヒーの粉や水も自分でセットできるようになった。一度だけ、水をカーペットの上にぶちまけて、思い切り愛海に叱られるという失敗もあったが。
何も知らないヤツが愛海の部屋に入ってきたら、さぞたまげるはずだ。ネコ缶やコーヒーカップが、ふわふわと宙に浮いているのだから。
幽霊が朝から、かいがいしく住人の世話をしているなんて、まさか誰ひとり想像もしないだろう。
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