インビジブル・ラブ(56)

 俺の名は、水主淳平。ケチな結婚詐欺師。
 たくさんの女をだまし、挙句の果てに路上で刺されて、みじめな一生を終えた。
 おまけに、死者のリストにも載っていないため、天国にも地獄にも行く場所がないという。
 そんなワルが、死んでからひとりの女に恋した。それが南原署捜査一係の刑事の愛海だった。
 正直、自分がこれほど女のために尽くせる男だとは、思っていなかった。
 金を騙し取るために女にやさしくすることはあっても、何の見返りもなしに、そうしようと思ったことは一度もないからだ。
 だが、いくら恋焦がれても、生きている人間が、幽霊相手に本気になるはずがない。
 いつか、愛海は生身の男を愛するようになるだろう。そして、それを幽霊は、なすすべなく見つめることになるのだ。
 それが、俺の運命。
 愛海を真剣に愛して、そして報われないことが、俺が生きている間に犯した罪に対する、天が与えた罰なのかもしれない。

 目覚ましが鳴り、愛海が眉をひそめる。長い睫毛がかすかに震える。
 今日も、寝ぼすけの彼女を起こすための、楽しい戦いが始まる。
 さあ、今日は彼女の体のどこを触って、目を覚まさせてやろう。
「愛海。起きろ」
 まず手始めに、俺は彼女の唇に、とびきり熱いキスをした。
 報われなくてもいい。今は、愛海のそばにいられるだけで十分だ。


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