インビジブル・ラブ(98)

「さゆりさん、佳山さんと幸せになれるといいね」
 愛海は、ちょっと下唇を突き出して、俺を見ていた。
「……それとも淳平は、あのふたりにヨリを戻してほしくない? 妬けちゃう?」
「なにを言ってる」
 俺は苦笑した。こいつ、まださゆりと俺の昔のことを気に病んでいるのか。俺がこれほど想ってやっているのに。
「ほっとしてるよ。昔だました女が幸せになれば、俺もそれだけ、つぐないができたってことだろ」
「それもそうだね」
「俺が今、関心があるのは、目の前にいる女をどうやったら幸せにできるかってことだけだ」
 フー公の抗議の声も無視して、俺はネコを霊指の力で蹴飛ばし、ソファの愛海の上に馬乗りになった。
 もちろん、幽霊は質量ゼロだ。
 柔らかな双丘を、ゆっくりと服の上からなで回すと、愛海はたちまち頬を真っ赤に染めた。
「ま、待って。今日はもう遅いし、明日の朝は早いし」
「却下。露天風呂には一回しか行けなかったし、おまけに、あそこの湯は白く濁ってるし、俺はもう欲求不満で死にそうだ」
「死にそうだって、もう死んでるじゃん」
「これ以上死んだらどうする」
 愛海の唇を割って、中に押し入る。甘い唾液を何度もこねて、いやらしい音を立ててやる。
「じゅ、淳平」
 刺激に耐えられなくなったのか、愛海は懇願するようにささやいた。
「じゃあ……いっしょにお風呂入ろうか?」
「いいのか」
「事件解決のお祝い代わりに、今日だけ特別だよ。湯当たりしないように、うんとぬるくして」
「いいけど、ひとつ条件がある」
「なに?」
「山緑館の売店で千四百円で買った、白い入浴剤は湯に入れないこと」
「……う、バレてた?」
 愛海は、笑いをひきつらせた。あわてて前言撤回しようとしたけれど、もちろんもう遅い。

 その夜、俺が風呂の中で、どれだけ至福のときを味わったかという一部始終は、書くだけヤボだろう。


   第三章 終



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