インビジブル・ラブ(99)

第四章


 どんなに熱烈に愛し合う男女でも、四六時中いっしょにいるうちに、熱も冷める。相手のアラが見えてくる。
 悲しいことに、これが人間の真実だ。
 そしてそれは、幽霊・水主淳平と、人間・小潟愛海の関係でも例外ではない。

「もう、我慢できねえっ」
 ある朝、堪忍袋の緒が切れた俺は、一気にまくしたてた。
「ゆうべソファにぶったおれて、そのまま寝ちまったおまえを、俺はベッドまで運んだんだぞ。そのうえ、クレンジングでメイクを落として、化粧水でパッティングまでしてやったんだぞ。それなのに、その見返りが、『頼んでないも〜ん』のひとことか!」
「ふんだ。だって、本当に頼んでないもん」
 ちなみに、愛海は45キロある。その愛海をベッドまで運べたのだから、俺の『霊指』の力は、相当にレベルアップしているのだ。
 などと自慢してる場合じゃないが。
「こないだメイクを落とさずに寝たら、『お肌がガビガビ〜』とか言って半ベソかいてたのは誰だ。だから、せっせと世話をしてやったのに、俺はもう、おまえの面倒なんて金輪際見ないからな」
「そんなに恩に着せるくらいなら、面倒なんて見てくれなくっていいわよ」
 とっくに体などというものが灰になっちまった俺でも、首筋がぞわぞわした。怒髪天をつくというのは、こういう心地のことを言うのだろう。
「もうおまえなんかのそばにいてやるもんか。出て行ってやる!」

 怒りにまかせてわめいた言葉が、愛海との同居生活の危機の始まりだったとは、そのときの俺は考えもしなかった。



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