インビジブル・ラブ(240)

第七章

「ベッドが熱ーい」
 愛海がごろごろと転がり出すと、それは俺に来いという合図だ。
「またかよ」
「だって、気持いいんだもん」
 地球温暖化対策で、できるだけエアコンを我慢するのが国家公務員の責務だというのが彼女の自論だ。しかも、防犯のため窓は絶対に開けたまま寝ない。
 熱帯夜ともなると、頭に保冷剤入りの鉢巻を巻いた八つ墓村スタイルで寝ても、どうしても寝苦しくてたまらなくなるらしい。
「せっかく幽霊と同居してるんだから、もう少し涼しくさせてくれてもいいじゃん」
「ようし。そんなに言うなら、内臓が傷口からはみだした、ぐちゃぐちゃ血まみれの姿で毎晩、枕元に立ってやる」
 などという冗談の末に思いついたのが、この方法だ。
 何のことはない。ベッドに横たわっている愛海の体を、霊指の力で20センチくらい持ち上げてやるのだ。
「涼しーい。背中の下を扇風機の風が通り抜けて、まるでぷかぷか空に浮いてるみたい」
「おまえはいいが、霊指の力を使い続けるのも、けっこう大変なんだぞ」
「淳平、愛してるぅ」
「まったく、口ばっかり」
 少しくらい役得がないと、やってられるもんか。
「ああん、淳平。どこ触ってるの」
「気にするな。風の妖精のいたずらだ」
「ひゃあ。これじゃあ、ますますアツくなっちゃうよ」
 出会ってから一年半。俺と愛海は、こんな相変わらずの毎日を送っていた。
 ミュージカル騒動や、K高の裏サイト事件で忙しかった7月が終わり、残りの夏はそれなりに平穏無事だった。
 まあ刑事の「平穏無事」というのは、一般人とはだいぶ違うけどな。



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