インビジブル・ラブ(282)

「涼香……ありがとう。すまない」
「さあ、何をぐずぐずしてるの! 行って!」
 涼香の高らかな叫びに、全身を押されたような衝撃があった。
 気がつくと、愛海のびっくりした顔が目の前にある。
 真ん丸に見開いた大きな目。先っぽがちょっと上を向いた鼻。ピンク色のふっくらと柔らかい唇。
「淳平」
「愛海!」
「お疲れさま。すばらしかったよ」
「愛海……愛海」
 俺は嗚咽にむせび、ただ愛海の名を何度も呼ぶことしかできなかった。

 熱演の余韻の残るコンサートホール。
 スタンディング・オベーションに湧いている聴衆のただ中で、
 ひとりの女と、
 ひとりの幽霊が、
 しっかりと抱きしめ合ってキスをしているなんて、いったい誰が想像するだろうか。


  第七章 終



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