インビジブル・ラブ(284)


『でも、ゆっくりしていられるのは一日だけなの。明日からベルリン』
「うわあ、忙しいんですね」
『あなたたちのおかげで、リサイタルも大成功だったし。事務所に頼んで、どんどん仕事を入れてもらったの』
「涼香さん、だいじょうぶですか。淳平をそっちに送りましょうか」
『あはは。邪魔だからいいわ。また必要になったら送ってもらう』
「送るだの送らないだの、俺は小包か!」
 涼香はすっかりスランプから脱し、ピアノを弾くのが楽しくて仕方ないようだ。
 結婚詐欺師に騙された心の傷で、指が動かなくなっていた世界的ピアニスト。
 これからも幸せでいてくれよ。できれば、俺のことなど忘れて新しい恋をしてほしいが、こればかりは時が解決することだ。どうしようもない。
 携帯を置くと、愛海は「よいしょ」とベッドから起き上がった。
「さあ、涼香さんもがんばってるし、私たちもそろそろ腰を上げて頑張らないとね」
「何をだ?」
「水主淳平殺害事件、残された最後の参考人は、現在まだ居場所がわからないの。何としてでも探し出さなきゃ」
 それを聞いて、俺は蒼白になった。いや、幽霊なんだから、もともと蒼白には違いないのだが。
「や、やめろ。そいつは絶対に違うから。犯人なんかじゃないから」
「あら。被害者には、何か人に知られたくない秘密があるのかな」
 愛海は意味ありげにニマーと笑った。「ますます闘志が湧いてきた。絶対に見つけて、その秘密を暴いてやるわ」
 ……悪夢だ。



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