インビジブル・ラブ(338)


「ああ」
 太公望は、神妙な顔でうなずいた。
「そして、ふたりに俺を殺せという命令をくだしたのは、南原署署長の渡良瀬だ」
「ああ」
「まったく笑っちまうぜ。よりによって俺の事件の捜査員の木下が、俺を殺した実行犯だったなんてな」
「いや、それは逆じゃよ。犯人だったからこそ、おまえさんの事件の担当に据えられたんだ」
「なるほど、そういうことか」
 はじめから渡良瀬署長は、署ぐるみで俺の事件を迷宮入りに仕立てようとしていたんだ。赤塚を資料課に配属し、真犯人につながる重要な捜査資料を処分させる。そして木下は専従捜査員として、的はずれな捜査ばかりして、真相があばかれないようにする。
 まだ新人刑事だった愛海を相棒に選んだのも、そのためだ。ドジばかりやってた彼女なら、木下の言いなりになると踏んだのだろう。
「そういえば、愛海はどうしてる?」
 俺は、愛海のことを思い出してあわてた。突然、俺の霊体が目の前で消滅したのだ。さぞ今ごろパニくっていることだろう。
「愛海ちゃんには、久下に頼んで連絡を取ってもらった。ゆっくり骨休めしているところだから心配はいらぬと」
「そうか。すまん」
 久下とは、太公望とつながりの深い心霊事務所の所長だ。俺はほっとしたと同時に、さっきから太公望が俺の話を聞いても、ちっとも驚いていないことに気づいた。
「最初から知ってたのか、あんたは。俺を殺した犯人を」
「知っておったよ」



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