インビジブル・ラブ(394)


エピローグ

 東京駅の東北新幹線ホームに、大型のトローリーバッグを片手に、ひとりの女性がたたずんでいた。
 黒い、つぶらな瞳。先をチョンとピンセットでつまんだような可愛い鼻。豊かなバストとすらりと細い手足。黙って立っていれば誰もが振り返る、絶世の美女……なのだが。
「うわああ。パスポートや切符、全部忘れちゃったよーっ」
「お、落ち着け。乗車券はここにある。国内なのにパスポートはいらんだろう」
「あ、そ、そうでした」
 彼女の隣に立っていた縁なし眼鏡の男性は、苦笑しながら乗車券を差し出した。
「本当に、きみは相変わらずだな。小潟くん」
「すみません。都築警部」
「まさか、冗談だと思っていたが、本当に行ってしまうとは」
「わがままを言ってすみません。せっかく捜査一課への転任の話を進めてくださっていたのに」
 ぺこりと頭を下げる。
「ああ、バレていたか」
「はい。佐内署長が、内緒で教えてくれました」
 そう言って、その女性――愛海は微笑んだ。

 南原署の渡良瀬署長と署員ふたりが、十七年にわたって四人を殺害した容疑で逮捕されてから、半年が経った。
 署ぐるみの犯罪という、かってない不祥事に、しばらく南原署には嵐が吹き荒れた。
 捜査の指揮を執った佐内刑事課長は、そのまま署長代理となって、署内の大改革に乗り出した。
 加賀美係長など多くの署員が、事実を知りながら隠蔽にかかわったということで、降格や訓告処分を受け、そのほとんどが退任あるいは転任していった。



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