インビジブル・ラブ(406)


 愛海は、呼吸が荒くなるのを自覚していた。
 胸が苦しい。まさか、こんなに近くにいるなんて。でも。
「おめ、何あることねえこと、吹きこんでんだよ」
 水月が両手に皿を持って現われ、同僚を横目でにらみながら愛海のもとに来た。
「部屋の鍵と、猫にやる水持ってきました。餌はありますか?」
「は、はい」
 あたふたと、愛海はトローリーのサイドバッグをさぐり始めた。
「おおい」
 水月は地面に片膝をつくと、ゲージの扉を開けて、皿を置いた。
「出てこいよ。喉渇いてるだろ」
 しかし、三毛猫は見知らぬ男に用心して、前脚をふんばっている。
「おい、意地張ってないで出てこい。飲みたいんだろ――フー公」
 愛海の手から、ばらばらと袋の餌がこぼれ落ちた。
「え……?」
 水月は顔を上げ、いぶかしげに愛海を見つめた。
 猫はのそのそとゲージから出てきて、うれしそうに「ぶみゃー」と鳴くと、水月の手に顔をこすりつけた。

『別にいいんじゃないですか。あなたの好きな人が、別人になってたって、あなたのことを忘れてたって。またもう一度最初からやり直せば』

 ふたりは時が止まったかのように、いつまでも互いを見つめ合っていた。





   INVISIBLE LOVE .... The end and ...

   「インビジブル・ラブ」 完


あとがき
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