インビジブル・ラブ(409)


 くそ、だいたい何故、俺がこんな苦労をしなきゃならないんだ。
 そもそも、いくら空き部屋がないからって、署の男子寮に女性刑事を住ませるなどと、最初に言い出したヤツはいったい誰だ。さしずめ、高橋ってところか。
 おまけに、署長も刑事部長も、誰も異を唱えなかった。普通だったら、絶対に変だろう。独身の男どもが七人も住んでいるアパートに女を入れるなんて、鯉がうようよ泳いでいる池にパンくずを放り込むようなものだ。
 何かあれば、寮長である俺の責任になる。絶対になにごともなく、円満に東京に帰ってもらわなきゃ困るんだ。
 また、けたたましいアラームが鳴り始めた。今度も止める気配がない。
「あ、あの。小潟刑事」
 ふすま越しに控えめな声をかける。「今日は初出勤なんで、そろそろ起きてもらえませんか」
 返事の代わりに、前にも増して高いびきが聞こえてきた。
「この、バカ女!」
 昨日かいま見せた、雨に濡れたユリのような、しおらしさは何だったんだ!
 俺はふたたび、勢いよくふすまを開けた。
 問題の箇所をなるべく見ないようにして、吹っ飛ばされていた布団を掛けてやる。そして、部屋の隅までころがっていた目覚まし時計を拾い上げて、スイッチを切った。
 なんで、俺がこんなことまで。
「起きろ!」
 彼女のそばまでにじりよって、腹立ちまぎれに耳元でありったけの声で怒鳴った。
 次の瞬間。
「淳平……」
 つぶやきながら、小潟愛海の両腕が伸びてきて、ふわりと俺の首にからまった。


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