インビジブル・ラブ(445)


「うん、わかってるよ」
 愛海は晴れやかな笑顔で、うなずいた。
「ちゃんと間違えないように呼ぶから。『俊平』。うう、まだちょっと慣れないけど」
「今夜は、寝ないで練習させてやるよ」
「なんだか、目がエロい」
「悪かったな。生まれつきだ」
 俺は愛海を腕の中に引き寄せ、有無を言わせずキスした。
「むーっ。む、むむーっ」
 愛海は手をばたばたさせて、抗議している。
 ふと、大勢のやじ馬が、固唾を飲んで俺たちを見つめているのに気づいた。しまった。幽霊じゃなくなった俺の姿は見えているんだ。
 繁華街のど真ん中、黄色いバリケードテープが張られた事件現場で刑事がキスをしているなんて、前代未聞の始末書ものだった。

 目を覚ますと、デブ猫がぬーっと俺をのぞきこんでいた。
「ああ、目覚めて最初に見た顔が、こんなデブ猫じゃ、起きる気もしねえな」
 悪態をつくと、フー公は「ぶみっ」と文句を言いながらも、うれしそうに身体をすりつけてくる。
 布団のすぐ隣では、愛海が明け方の深い眠りの中にいた。
 赤みの差したなめらかな頬、端にうっすら白く乾いたよだれがついているピンクの唇。触れようと手を伸ばして、やめた。もう少し、このまま眺めていたい。
 二年間いっしょに暮らしたあいだに知り尽くした身体だと思っていたのに、霊指ではなく本物の手で触れるほうが、何十倍もすばらしかった。
「うーん」
 俺の視線を感じたのか、愛海がうっすらと目を開けた。
「じ……しゅんぺい」
「ダメだ。もう一度」
 あれだけ夜どおし呼ばせたのに、やっぱり、まだあと一時間くらいは練習が必要なようだ。
 俺は布団を引き剥がして、そっと彼女に覆いかぶさった。


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