黙って私の様子を見て立っていた遥が、たまりかねて口を開いた。
「俺、わからないことがいっぱいあるんだけど。説明してくれるかな」
顔を上げると、彼は不機嫌そうに眉根にしわを寄せて、私をにらんでいた。
「なぜうちの祖父があんたのことを知っているんだ? なぜ祖父は、家の書斎にあったこの鏡を見るたびに、あんなに幸せそうに笑っていたんだ? なぜあんたは、祖父の手紙を読んでそんなに泣くんだ? あんたは誰なんだ?
俺は祖父のことが小さいときから大好きだった。祖父とあんたのあいだにいったい何があったのか知りたいんだ」
「うん」
私は涙を手の甲でぐいと拭くと、立ち上がった。
説明しなければならないだろう、私たちのことを。
わかってもらえるかどうかわからない。あまりに奇妙であまりに不思議な話。頭がおかしいと思われるかもしれない。
だけど、知って欲しいと思った。おじいさんを大好きだったというこの人には。
「こみいった話になるけど、いいかな」
「かまわない」
「そこの椅子に座って」
遥は警戒しながらも、言うとおりにした。
「私は、春日野たえ。高校2年生。私があなたのおじいさんと最初に会ったのは一ヶ月前、この鏡の中だったの……」
私はむかしむかしの物語を話し始めた。
(終)
* 東亜同文書院大学は実在した学校ですが、本編には歴史的事実とは異なる部分があります。ご了承ください。