立ち上がって、店の入り口に出る。誰もいないことを確かめ、奥の帳場に戻る。
象の銅器の置物。木彫りの鬼の立像。李氏朝鮮の白磁の壷。
次々と通り過ぎて、私の目は正面の柱の壁にかかっている一枚の鏡に釘付けになった。
それはうちの店の商品にはめずらしい、昭和初期のアールヌーボー調の壁鏡だった。葡萄のつるに似た凝った銅製のひだ飾りは、歳月のため黒くすすけている。
その鏡にひとりの男の姿が映っていることに気づいて、あわてて口を押さえたものの、洩れた悲鳴が壊れたふいごのような音を立てた。
「ふひゃあっ」
幽霊。幽霊だ。
真正面に立っている私と鏡とのあいだには、空気以外の何物もない。映るはずのない映像だった。
幽霊が出そうな骨董屋。小学校の同級の悪童たちがそう言って私をからかったものだが、まさか自分の目が本物の幽霊を見るはめになるとは。
腰をぬかしかけた私を、男の目はとらえたようだった。
「誰だ。きみは」
うわあ、しゃべった。人間さまに向かって誰だなんて、幽霊のほうから聞かないでよ。
でもその声は、一目散にその場を逃げ出そうとしていた私の足を止めた。
声の中にかすかにかぶる、怯えたような響き。相手も怖がっている。
「あなたは、……あなたこそ、誰なの?」
私が問いかけると、男は目を少し見開いた。答えが返ってくるとは思ってなかったのだろう。向こうも私を幽霊だとおもっていたのだろうか。
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