手をのばして(6)

「ごめん、その新聞返してくれない? おじいちゃんにどこにやったって聞かれると困るから」
「あ。すまない」
 ふたたび彼の手から鏡面を通って、新聞は現代に戻ってきた。60年の歳月を経て帰ってきた新聞。黄ばんでかさかさになっているかと思わず表面を撫でたが、元のままだった。
「もっと見たかった?」
「いや」
 私の手に移った新聞からまだ目を離さぬまま、けれどもそこには安堵に似た光が宿っていた。
「これから何が起こるかを見るのは、怖い。未来の出来事を知るべきではないと思う」
「そうかもしれないね」
「あの。……たえさん?」
「あ、はい」
「僕たちは、なぜこんなふうに時を越えて話ができるんだろう」
「わからない。この鏡の力じゃないの?」
「これはこの部屋にずっと前からあったものだ。家主の中国人にも聞いてみたが、不思議なものを映し出したことはかつて一回もなかったそうだ」
「私も。この鏡は1年くらい前からこの店にあるけれど、こんなことはこれが初めて」
「きみさえ、もしよかったらだが」
 彼は、はにかみながら言った。「これからもこうして鏡をのぞいて、僕と会ってはくれないか」
「え?」
「これは人知を超えたことであるという気がする。僕ときみがこうして時を越えて話ができるのは、天が与えた何かの意味があるのではないか。もしきみが承諾してくれたら、できる限り僕はこの鏡の前に立って、きみを待とうと思う」
「……」
「いやだろうか?」
 彼の瞳の真摯なさまに打たれて、
「は、は、はい」
 私はすっかりあわてふためいて、そう返事をしてしまった。

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