ご主人さまのお好きなレシピ(105)


第三章
  「日光とビタミンDは欠かせません」


 新鮮な食材を仕入れられたことに気をよくして、私は自転車のペダルを思い切り踏みこんだ。
 前かごでセロリやカブの葉がわさわさ揺れる。ビニール袋についた水滴が陽の光を反射して、宝石のように輝く。
 木漏れ日が、行く手の街路を繊細なレース模様に染め上げている。
(ああ、いい気持ちだあ)
 太陽の光を浴びるって、なんていい気持ちなんだろう。
 ミハイロフさまに仕えるようになって、そろそろ一年が経つ。暮れ方に起きて夜明けに眠るというご主人さまの生活に付き合っているうちに、すっかり夜型になってしまった私だけど、卸市場での朝一番の食材の仕入れは、毎日欠かさず自分で行く。
 その行き帰り、朝の光を浴びる心地よさを満喫するたびに、人間が太陽の恩恵をどれだけ受けているかを、つくづく感じる。
 そして、思う。
 太陽を忌むべきものとして生きるご主人さまの一族は、どれだけ私たち人間とは、かけ離れた存在なのだろう。

「人は、日光を浴びることによって、ビタミンDを皮膚において生成します。食べ物から摂取するビタミンDと合わせて、カルシウムの吸収をうながす働きがあるので、日光に当たらない生活をしている人は、骨や歯が衰え、骨粗しょう症になりやすいんです」
 帰ってくるなり、まくしたてた私に、来栖さんはあきれたと言った調子で答えた。
「で、伯爵さまに、その恐れがあると?」
「……骨はともかく、歯はめっちゃ丈夫そうですよね」


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