ご主人さまのお好きなレシピ(175)

第四章
  「想い出はタンパク質のせいですか」

 私は、人の名前を覚えるのが苦手だ。特に外国人のカタカナ名。
 だから、この屋敷にご奉公に上がった最初は、レオン・ニコラエヴィチ・ミハイロフだとか、イアニス・ゲオルギウ・ヴァラスとか言われて、死ぬほど苦労した。ちなみに、海外のミステリー小説なんかは、登場人物の一覧表がないと読めない。
 そんな私でも、すぐにわかったことがある。
 『レオニード』は、たぶんロシア名であること。そして、ご主人さまの『レオン』という名前と、とてもよく似ていること――。
「もう、歴史の歯車を止めることはできません」
 来栖さんは、なおも悲痛な声で訴えた。「あなたがお立ちくださらなければ……この国もやがて」
 『やがて』? そんなところで言葉を切らないでくださいよ。
 日本は、やがて破産するんですか沈没するんですか爆発するんですか。どうなるんです、来栖さん。
 ご主人さまは、右手をワインで濡らしたまま、席を立ち上がられた。
 うなだれておられるので、私の角度から表情は見えない。真っ黒な長い髪が青白い頬にかかり、まるで、海の底に沈んでいる人のように見えた。
「……行く」
「はい?」
「今からルイのところに行く。支度をせよ」


●NovelーLine● †ハイファンタジーズ† 携帯小説Ranking
次へ 前へ TOP