ご主人さまのお好きなレシピ(2)


 私は、高校を卒業してすぐ、この調理師学校に入学した。
 もともと、小さいころから食べることが大好きな子どもだった。
 父親はしがないサラリーマンだったが、近所に古いなじみの小さなイタリアンレストランがあった。そこのヒゲ面のシェフに、小学生のころからパスタの作り方を教わった。
 下町の回転しない寿司屋には、それこそ、大きな湯のみが両手で持てない時分から入りびたっていたし、女将がひとりで経営する安くておいしい小料理屋も、よく家族で暖簾をくぐったものだ。
 今から思い返せば、食にだけは惜しみなくお金をかけていたのだ。ものすごくエンゲル係数の高いうちだったと思う。
 調理師を志して、はじめて思い知らされた。両親は私にピアノもバレエも習わせてはくれなかったけど、「おいしい、まずい」を見分ける鋭い鼻と、肥えた舌という得がたい才能を身につけてくれたのだ。ほんとうに感謝している。
 トップクラスの成績を修めて、半年前に卒業。希望に燃えて、就職先に決まっていたレストランで働き始めた。
 ところが、なんと出勤二日目にして、レストランが倒産した。オーナーはとんずら。
 それが、私の不幸の連鎖のはじまりだった。
 ……などと、回想モードに入っている場合ではない。私は今、喉から手が出るほど、仕事がほしいのだ。
「決めました。私、ここに行きま――」
 すんでのところで、語尾を飲み込んだ。ちょっと待てよ。
「この求人票の日付、二年も前じゃないですか」


●NovelーLine● †ハイファンタジーズ†
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