ご主人さまのお好きなレシピ(245)


 私はずっと、ご主人の体に少しでも良いものをと考えて献立を作っていた。けれど、いつのまにか、ビタミンDとかアミノ酸とか、食物の効能ばかりを優先していた。
 きっと、どこかで見失っていたんだと思う。料理の力は、栄養素を越えたところにあることを。
 人間は物質だけの存在じゃない。
 そして、思い出は、タンパク質の作用なんかじゃない。
 人の心の奥深い密室に、その宝物は息づいていて、私たちを鎖に縛りつけもするし、勇気づけてもくれる。
 料理は、その宝物を自在に取り出す鍵なんだってことを、私は忘れかけていた。
 ルイさまは、それを教えてくれようとしたのかな。
「わかりました。もう一度、やってみます」
 ポットにティーコゼをかぶせ、お盆を両手でグイと持ち上げた。
 いったい何をもう一度やってみるのか、自分でも曖昧なままだったけれど、ルイさまは「うん」とうなずいた。
「ありがとう、ルカ」
「いいえ、私こそ」
「ポット、持つわ」
 私たちは連れ立って厨房を出て、応接間に向かった。
 扉を入った瞬間、みな強ばった面持ちで、こちらを振り返いた。イアニスさま。マユ。貴柳神父。来栖さん。
 そして、その場にもうひとりいることに気づき、私は立ち止まった。
 奥の暗がりに立つ、高く気品のある人影。一瞬、ご主人さまかと喜びかけた私は、そうではないことに気づいて、もう少しでお盆を落としそうになった。
 金色の髪に金色の瞳。夢の中でよく見知った顔。
『金髪のレオン』
 ご主人さまを追い落として、一族の長の座についたあの人が、私たちの前に立っていたのだ。


   第四章 終


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