ご主人さまのお好きなレシピ(246)


第五章
「結局のところ、素材がいのちです」

 今、私は修羅場のまっただなかに飛び込んでいる。
 だけど、その状態を説明する前に、ひとつだけ、ここで確認しておかなければならない。
 調理師学校から仕事を紹介されたときに教わった「ミハイロフ伯爵」という名前は、そもそもは、目の前に立っているこの方の名だった。そして、レオニード大公のほうが、ご主人さまが正しく受け継がれた名前だった。
 けれど、今は違う。
 今は、この方がレオニード大公で、ご主人さまがミハイロフ伯爵。
 どこかで、何かの理由で、ふたりは完全に入れ替わってしまったのだ。そして、この方が一族の長として君臨し、ご主人さまはトランシルヴァニアを去り、シベリア経由で、百年前の日本へ渡っていらした。

 なぜ、こんなことを、くどくどと説明するかといえば、おふたりが本当に似ているからなのだ。
 顔が似ているわけではない。黒髪黒瞳と金髪金瞳から受ける印象からして、まず違う。体つきは似ているけれど、背丈はたぶん、この方のほうが高い。
 なのに、ふたりはまるで双子のように、共通するものを持っている。それは、レオニード大公として一族の運命すべてを背負い、何百年にもわたって世界を背後から操ってきたという矜持、そして、それゆえの存在感なのだろうか。


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