ご主人さまのお好きなレシピ(329)


「俺たちは、馬之助が用意したこの屋敷に居を構えた。軍を退役した馬之助は、そのときから俺の片腕となり、巨額の資産を動かして、世界の国々がアレクサンドルの思い通りにならぬように手を尽くしてくれた」
 そして、うめくように呟かれた。「俺が今もこうして、この国で生きていられるのは、馬之助のおかげだ……あのときの俺は、それどころではなかったゆえ」
 大公の座を追われ、すべてを失って日本に落ちのびて来られたご主人さま。どれほど憔悴しておられたんだろう。
 そして、そのとき隣にいたのは、心を閉ざしたローゼマリーさま……彼女を見るたびに、ご主人さまは、どれほどの苦痛にさいなまれたんだろう。
「馬之助は、ローゼマリーの世話をさせるために、日本人の娘をひとり連れてきた。貧しく身寄りもない、十四、五歳ほどの娘だった。もちろん」
 ご主人さまはそこで、ほんのわずか口をつぐんだ。
 もちろん……最後には血を吸われて殺されてしまう運命だったのだろう。だから、あえて身寄りのない少女が選ばれたのだ。
 ご主人さまたちが血を吸う人間を提供し、誰にも知られぬように死体の後始末をする。それが、来栖一族がご主人さまと取り交わした契約だったのだから。
「その娘は多恵といった。多恵はここに来た最初の日から、親身になって妻の世話を焼いた。ことばは全く通じなかったが、懸命に話しかけたり、食事を摂ろうとしないローゼマリーを気づかって、あれこれ食べ物を用意した」
……まるで、このお屋敷に来たばかりのころの私みたいだ。


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