ご主人さまのお好きなレシピ(334)


 以前、来栖さんはこう話していたっけ。
『ローゼマリーさまは他の命を犠牲にしてまで生きたくはないと言って、自らの命を絶たれた。だから伯爵さまも血を吸わないのだ』と。
 それはたぶん、お祖父さんの馬之助さんがそう伝えたんだ。幼い孫に語るには、あまりに真実はつらいから。
「だから、ルカ」
 突然、ご主人さまの大きな手が私の頭にぽんと乗った。ローゼマリーさまの追憶の前では吹き飛んでしまったはずの私の名前、ちゃんと覚えてて呼んでくださった。
「何も感じず、何も望まず、死人として生きることしかできない俺に、ふたたびそなたを愛することなどできるのだろうか。……いや、そもそも俺は人を愛したことなどないのだ。ローゼマリーを身勝手な欲望のために利用して、最後には捨てたように、そなたのことも、いつかきっと同じ目に合わせてしまうだろう」
 レオンさまの漆黒の瞳が光のさざなみを立てている。ご主人さま……泣いておられるんだ。
「俺はそれが怖くてたまらないのだ。ルカ……そなたをあの子と同じように傷つけたくない」
 その目を見たとき、がくがくになっていた私の足腰が、まるでホウレンソウを食べたポパイみたいに力を取り戻した。
「いいえ……いいえ!」
 私は叫びながら、すっくと立ち上がった。「大丈夫です。ご主人さまは、ちゃんとローゼマリーさまを愛しておられました」


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