ご主人さまのお好きなレシピ(348)


「な……なぜ」
 来栖さんの脳内では、私はとっくにご主人さまに一族の儀式を施され、吸血鬼になっていたのだろう。
 血以外の何も美味しいと感じることができなくなって、コックコートを脱ぎ捨て、夜更けに青ざめた顔で現れると思っていたのだろう。
「ご主人さまのおやすみのお茶を淹れます」
 私はコンロに薬缶を乗せ、火を点けた。とっておきのアールグレイの缶を取り出し、最高級のレミー・マルタンの黒瓶の封を切った。
 今日は、ティー・ロワイヤルだ。コニャックをたっぷり染み込ませた角砂糖に青い火を点ければ、ご主人さまの部屋全体に得も言われぬ芳香が広がるはず。
 二日間の死闘の疲れを取って、ぐっすり休んでいただくために、最高の飲み物だ。
 私は振り向いて、にっこり笑った。
「来栖さん。ティーセットを準備してくれますか……ご主人さまと私と来栖さんの三人分」
 唖然と開けられた執事の口元にも、ようやく笑みが浮かんだ。
「おまかせを」


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