ご主人さまのお好きなレシピ(351)


 かわいい。いたずらっ子みたいで、悶絶しそう。
「完璧です」
 持っていた手ぬぐいで口を拭って差し上げる。反対側からナプキンを差し出そうとした来栖さんが、すぐに手をひっこめた。
「もうすぐ、ルイさまと貴柳神父が仕事を終えていらっしゃるので、この残りは冷やしておきますね。それに、日が暮れたらイアニスさまとマユも交えて、晩餐の前の花火大会という趣向になっています」
「すべては、そなたの計画どおりか。百年間静寂が満ちていたこの館が、まるで場末の酒場のようだ」
「賑やかなのは、おいやですか?」
 ご主人さまは立ち上がり、庭にしばらく見入っておられた。鬱蒼としげる樹木に囲まれて、花壇のダマスクローズは夕方の風に揺れながら、まるで美しい少女が笑いさざめいているように見えた。
「いや」
 ご主人さまは振り向いた。「嫌いではない」
 そして、ベンチに腰かけたままの私の上にかがみこみ、一言ささやかれた。
 とても小さな声だったけれど、すぐ背後に立っていた来栖さんには、きっと聞こえていただろう。
「だが、そなたと二人きりになれぬ」
 笑いを含んだあたたかな息が、私の耳をくすぐった。



  第5章 終

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