ご主人さまのお好きなレシピ(52)


第二章 鉄分をたくさん摂りましょう

「ご主人さま、おはようございます!」
「宵の口だというのに、その挨拶か。相変わらず無駄に明るいな」
「暗さ満点のご主人に対抗するために、毎日しっかり気合を注入してますから」
 お目覚めのお茶のスパイスは、久しぶりのこんな会話。不機嫌そうに眉根を寄せながらブランデー入り紅茶を口に含むご主人さまを、ただじっと見つめる至福の時間がまた戻ってきたのだ。
 悪態をつきながらも、私がそばにいることをお許しくださったミハイロフさま。
 いや、『ミハイロフ』は偽名だと来栖さんは言っていたから、レオンさまと呼んでいいかな。……きゃーっ。心の中で呼ぶだけで照れちゃう。なんだか少し恋人に近づいたみたい。
「何をそんなに、もだえている。気持ち悪い」
 ……うう、やっぱり恋人への道は険しい。
 お盆を下げて、部屋を出ると、帰り支度を整えた来栖さんに、廊下でばったり会った。相変わらずちっとも働かずに、きちんと定時に帰る人だ。
「あ、そう言えば、来栖さんて、下の名前はなんて言うんですか?」
 灰色の髪の執事は、何でそんなことを聞くのかという顔で首をかしげた。
「……聖人(きよと)ですが」
「来栖聖人?」
「変ですか」
 変と言うか、仮にも吸血鬼に仕える執事として、これ以上皮肉な名前はないと思うよ。


●NovelーLine● †ハイファンタジーズ†
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