ご主人さまのお好きなレシピ(53)


「ところで、あなたの名前も何かいわれがあるようですね。日本人で『ルカ』というのは珍しい」
「福音書を書いたイエスの弟子の名前です。私の伯父さんが牧師してて、聖書から名づけてくれたんです」
「そっちも思い切り、皮肉な名前じゃないですか」
「漢字も凝ってるでしょう。『石榴(ざくろ)』の榴と、『果実』の果ですよ。小学生、漢字練習帳に書けないですよ。ミステリー読んでて、『ぱっくりとザクロのように割れた傷口から血がだらだらと』なんてくだりが出てきたときにゃ、死ぬほど伯父を恨みました」
「ははあ、これはまた別の意味で皮肉ですね」
「古くから多産と豊穣のシンボルと呼ばれ、女性の身体にもいいんですけどね。なにせ見た目が」
 ほうっとため息をついて調理台の前にすわりこんだ私は、目の前に並んだ食材を見て、名案を思いついた。
「そうだ、来栖さん。今日はたくさん作るつもりなので、正餐を食べて帰りませんか?」
「残りものならば、いつものように明日の昼いただきますが」
「やっぱり作ったその日のほうが段違いに美味しいです。それに、ふたりより三人で食べるほうが絶対楽しいし」
「三人?」
 その真夜中、ご主人さまは食堂に入ると不思議そうな顔をされた。
 いつもなら、とっくにいないはずの執事が、おじぎをして出迎えたからだ。
「なぜ、おまえがいる。クルス」
「茅原シェフにとどめられました。今日の料理は自信作のようです。しかし――」
 来栖さんは、声をひそめた。「わたしが行かないと、あの方はひとりで何をなさっておいでか」


●NovelーLine● †ハイファンタジーズ†
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