あなたの歌が聞こえる(12)


 おだやかな春風に乗って流れてくる、よく通る低く甘い歌声に、患者や病院のスタッフたちはふと足を止めた。まるで幼い頃の思い出にひたっているような表情で、誰もが聞き入っている。

『今 きみはどうしているだろう
きっと ぼくのことなど忘れて
どこかの家の 幸せな窓辺にたたずんでいる
でも 神がゆるしてくれるなら
いつか ぼくの歌がとどいて
ほんの少し ほんの少しだけ 笑ってくれるといい』

 ギターピックが手から離れ、芝生に落ちた。「美玖……?」
「怜……」
 美玖の目から、とめどなく涙があふれている。
「怜……、どこ? 遠くからあなたの歌が聞こえる。……どこにいるの?」
「……美玖!」

 そのとき瞳がすっと焦点を合わせた。
「怜」
 美玖はためらいのない真直ぐなまなざしで、ただぼろぼろと泣いている彼を見上げて微笑んだ。
「――会いたかった」


   (終)