デビューして半年後、「ブルーカオス」の3枚目のシングルは発売第1週でいきなりチャートインし、その数ヶ月後に出したファーストアルバムはトップセールスを記録した。
街中で怜の歌声が流れ、テレビで怜の姿が見られるようになった。
「ブルーカオス」のボーカルとしての怜は、青い髪を騎士の羽飾りのように逆立て、濃いシャドーを入れ、まるで野獣のように美しかった。
美玖は、彼の出るすべての番組を録画し、彼の載る雑誌はすべて買い漁った。
忙しいスケジュールの合間を縫って、怜は美玖に会いに来た。
化粧を落とした怜は、整った顔をしているだけの、痩せたどこにでもいる若者だったので、ふたりは堂々と腕を組んで街を歩いた。
ベッドの上で抱き合うときの、彼女だけに向けられる怜の声とまなざしで、美玖はどんな孤独も忘れることができた。
セカンドアルバムがミリオンセラーとなってからほどなくして、怜はほとんど姿を現さなくなった。
たまに会っても、疲れきった様子でぼんやりと呟く。
「新曲ができないんだ」
「今日も、コウとドラムのことでけんかしちまった」
美玖は、彼の口から今まで聞いたことがなかった仲間への悪意の言葉が発せられるのを聞いて、心がうずいた。
「ブルーカオス」の全国ツアーが始まった。
東京ドームでのライブも決定した。
だが、美玖はテレビに映る怜の眼が、心なしか沈んでいることに気づいた。
ある日美玖はいたたまれない気持ちで、会社を休んで、関東の地方都市のコンサートに行った。
花束を持って会場の裏に回ると、ちょうど大勢のファンにもみくちゃにされながら、「ブルーカオス」のメンバーが通用口から出てくるところだった。
「怜!」
彼女の澄んだ声は、怜の耳に届いた。一瞬目が合った。
しかし、彼はうざったそうにそのまま顔をそむけて、ワゴン車に乗り込んでしまった。
その日から、美玖は怜と会わない決心をした。
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