1年がたった。
「ブルーカオス」は今や、アジアに進出するほどの国際的なスターダムにのしあがっていた。
美玖は、こっそりと職場を変え、アパートを移った。
怜が使っていた歯ブラシも、茶碗も、着替えの下着も全部処分した。彼につながるすべてのものを、忘れようとした。
しかし、忘れることはできなかった。
街に出れば、「ブルーカオス」のコンサートのポスターが貼られている。あちこちの店で怜の歌声が耳にとびこんでくる。
職場に行けば昼休みに、彼女と怜のことを知らない同僚が、彼の写真が載った雑誌のグラビアを読んでいる。電車の中では、声高に女子高生たちが怜の新しい恋人の噂話をしている。
テレビをつければ、CMにBGMに、彼らの曲が聞こえてこないチャンネルはなかった。
美玖は、怜の表情が冷たく、いらだったものに変わっていることに気づいた。
その深い色の瞳は鋭利な刃物のようだった。彼女を憩わせてくれたはずの声は、とげとげしく世の中の狂気と憎悪を告発していた。
不思議なことに、彼が変われば変わるほど、人々は彼に熱狂した。
こんなにうつろな彼の瞳を見たくなかった。それなのに見えてしまう。
こんなに冷たい彼の声など聞きたくなかった。それなのに聞こえてしまう。
美玖は毎日地獄の中を生きているようだった。
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