しかし、ある日突然やすらぎが訪れた。
街を歩く美玖の目に映る怜の写真は、霞がかかったように白くぼんやりと見えた。
スピーカーから聞こえてくる怜の声は、分厚い緞帳の向こうのようにくぐもって、とぎれとぎれだった。
よかった。これでようやく彼のことを忘れられる。
美玖は交差点のまん中で、にっこりと微笑んだ。
深まる秋の中、美玖は病院のベンチに坐ってぼんやりと空を見つめていた。
カサカサと銀杏の枯葉を踏みしめて近づいてくる足音がする。
「美玖。ずっと探したんだ。いったい何で突然いなくなっちまった?」
遠くでジョウビタキの「チーチョ、チーチョ」と鳴く声がする。
「聞いてくれ。今度のツアーを最後に「ブルーカオス」は解散した。
俺はソロとして、また一から始める。インディーズからやり直しかもしれないけど、それでも自分の好きな曲だけを歌っていたいんだ。
美玖に元どおり、ずっとそばにいて欲しいんだ」
秋の色づいた日差しがやわらかくて、気持ちいい。
「美玖! なんで返事をしてくれない!」
そのとき、病棟のほうから人が来る気配がした。
「あ、霧島先生」
美玖は、医師を見上げて微笑んだ。
「今日はいいお天気ですね。空気が澄み切って、とても静か」
30代後半の冷徹な眼をした男は、怜に向かって会釈した。
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