いつも思い出す光景がある。
どこかの地方都市の県民ホールの楽屋の裏手。
押し寄せてくる大勢のファンの中に、美玖がいたのだ。
2時間のステージのあとで疲れ切っていた。自分たちの人気に酔いしれ、同時にいら立ち、不安だった。
華やかに着飾った少女たちの中で、ちっとも垢抜けない服装の彼女を見つけたとき、動揺した。
彼女は昔と何も変わらない。彼のにごった心を見抜くような透き通った美玖の瞳。
怜は思わず目をそむけた。
拒絶。
そのしぐさの意味がわかったのだろう、それ以後、彼女のほうから連絡を絶った。次に彼女と再会したのは、この病院の中だった。
(俺は自分のおかした罪の罰を受けているのだ)
と思う。彼女を見えないふりをした罰に、美玖は本当に俺のことが見えなくなってしまった。
できることなら、フィルムを逆回しにするように、あのときに戻ってやり直したい。
「霧島先生。たった数分でいい、美玖と話がしたい。……今までのことをあやまりたいんだ。何とかして、俺のことばを彼女に伝えていただけませんか」
消え入りそうな声でつぶやく眼の前の若い男を、精神科医はじっと見つめた。
そして、そばに立っていた看護師に言った。
「白石美玖さんを、呼んできてください」
「霧島先生、こんにちは」
美玖は部屋に入ってくるとき、無邪気なほどうれしそうな声をあげた。そのあけっぴろげな笑顔は、まるで小学生の少女のよう。
対する霧島医師も、いつもの冷徹な表情からは想像もつかないほど、おだやかに微笑んでいる。
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