あなたの瞳の殺意(2)

「今日は東京に出て、男と会っていたそうだな」
 使用人たちは命じられて、私の行動を逐一彼に報告しているらしい。
「いいえ。同窓会で、久しぶりに高校時代の友人たちと会っただけです」
「昔つきあっていた男に、しなを作っていたそうじゃないか」
「そんなこと、嘘です。私は誰ともつきあったことはありません」
 必死に弁解すればするほど、彼は私の髪をひっぱり、服を裂いて陵辱した。
 その人並みはずれた猜疑心は、本妻が部下と密通したことに始まるとも聞いた。その部下は社会的に抹殺され、本妻もアルコール中毒で廃人同様になっているという。
 私は恐ろしさのあまり、家に閉じこもるようになった。

 泣くことも笑うことも忘れた人形のような生活の中で、ただひとつ私の心を燃やしたのが、彼の存在だった。
 名前は倉木俊介。
 私より2歳年下の倉木は、大学を出てすぐ深津の秘書となった。
 彼の父の会社も深津の援助を拒めない状態に追い込まれて、ひとり息子の彼を差し出したのだ。
 秘書とは名ばかりの奴隷だった。
 早朝から深夜まで寝る暇もなく、仕事以外の理不尽な彼の要求に忙殺された。
 彼の秀麗な額には、2センチほどの切り傷がある。私が嫁ぐ前、彼がまだ新人の頃、意に背いて新幹線のかわりに飛行機の予約をしたというだけでとがめられ、深津に灰皿を投げつけられたのだということだった。
 血をぬぐういとまさえ許されず、彼はただ土下座することを強要された。
 夫は人を抵抗できないようにがんじがらめにしておいてから、じわじわと首を絞めるのを好む、根っからのサディストだった。
 私を見張らせるのも、愛するゆえの嫉妬からではない。私を痛めつける口実を探しているだけなのだ。
 似た境遇の私たち。
 いつしか、私たちは互いをいたわりの目で見るようになった。

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