あなたの瞳の殺意(3)

 共感が愛に変わるのに、時間は必要なかった。
 監視の目が光る中、私たちは細心の注意をはらった。
 決してふたりきりで話したことも、笑顔を見せたこともない。
 ただ、周りの目を盗んで、こっそり遠くから瞳を交し合う。
 彼が私を見つめるたびに、血が沸騰し、甘い興奮に五感は酔いしれた。
 深津のただひとつの趣味は乗馬だった。自分専用の厩舎を持ち、数頭の馬を飼って、私邸の広大な庭を走らせるのが週末の日課だった。私も強いられて、ときおり同伴した。
 大学生だった倉木が夫の目に止まった理由は、そもそもは彼が大学で乗馬部に属していたからだ。
 過酷な仕事の暇を見つけては、倉木はしばしば厩舎員に代わって馬の手入れをしていた。
 馬の毛を梳くときの、彼の優しいまなざし。ああして私も触れられたいとどんなに願ったことか。
「綾子さま。どうぞ」
 乗馬服姿の私に、彼は鞍を準備した馬を引いてきて、手綱を差し出す。触れ合わないように注意を払いながら、私はそれをそっけない仕草で受け取る。
「ありがとう」
 倉木が私の名を呼ぶ温もりのある低い声と、手綱をとおして繋がっているという意識だけで、私の下腹部は痛みにも似た快感で満たされた。

 あれほど気をつけていたのに、いつしか私たちの秘めた思いは夫の知るところとなった。
 ある冬の週末の夜。雨が冷え冷えとした音をたてて屋根をうつ。
 深津は私を書斎に呼び、暖炉の前でいきなり私の着ていたものを脱がせ始めた。
「あ、あなた。こんなところで。やめてください」
 彼の真意はすぐにわかった。彼は私をあらわにした後に、倉木の名を大声で呼んだのだ。

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