あなたの瞳の殺意(5)

 夫は私の乱れた様に味をしめた。
 小動物を2匹いっぺんにいたぶる術を手に入れたのだ。
 それからというもの、深津は私との情事の場に必ず倉木を呼んだ。
 若い彼はただ拳をぎゅっと握り締めながら、ベッドのかたわらに立って、夫が獣のように私を犯すのを見ていた。
 夫が私の身体に夢中でかがみこむ隙を縫うように、私と彼は見つめあった。
 彼のその深い色の瞳にあった燃える怒りがやがて、冷めた悲しみに、そして氷のような殺意に、静かに形を変えていくのを私だけが知っていた。

 1年がゆっくりと過ぎた。
 倉木は仕事の忙しい深津にかわって、たびたび別荘まで出かけてきては、夫の愛馬「フォーグル号」にまたがった。
 フォーグル号は、精悍なサラブレッドの青毛馬で、競走馬として第一線で活躍してもおかしくないほどの名馬だった。その均整のとれた筋肉を損なわぬように、夫は倉木に絶えず念入りな調整を命じていたのだ。
 倉木がその長身を馬上に預け、草原を駆る姿は、涙が出るほど美しかった。
 彼はいつも、決まったコースをたどった。私邸の境界である柵をひらりと飛び越え、白い陽光に照らされて、真珠のような輝きをたたえる房総の海に臨む。
 海沿いの入り組んだ海蝕崖の上をひた走り、巧みな手綱さばきで馬を操りながら、岩肌のむきだす、目もくらむほど急峻な高みを軽やかに飛び越える。
 馬と乗り手はひとつの生き物だった。もし誰かがこの光景を目撃したとしたら、この馬の本当の主人は彼だと認めただろう。
 私は2階の白いフランス窓からいつもその光景を眺めていた。

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