あなたの瞳の殺意(6)

 倉木と私は以前にもまして、互いに近づかないようにしていた。
 挨拶さえも交わさない。屋敷中に深津によって盗聴器が仕掛けられているのを知っていたからだ。
 ただ、ほんの一瞬のあいだ、目と目を交わす。その刹那のために命を賭けた。

 深津は死んだ。
 空気さえとろけるような夏の夜のこと。
 私や倉木、そして屋敷の使用人たちがとめるのも聞かず、ほろ酔い気分でひとりで乗馬に出かけた夫は、二度と帰ってこなかった。
 ただ愛馬だけが、主のいない鞍を背にむなしく戻ってきた。
 数週間して、波頭砕け散る岩場に、半分白骨化した遺体が打ち上げられた。
 盛大な社葬が、倉木たち社員の手によって執り行われた。
 私も喪服を着て出席した。
 黒いレースのペールの陰で泣く真似をする必要はなかった。誰もが、私が夫を愛していないことくらい知っていたから。
 深津の死を悼んでいる人など、誰もおりはしなかったのだ。
 正妻でない私には、何も遺されなかった。遺言により、家も別荘もほとんどの財産が会社の資産として処分される手はずになっている。私に与えられたのは、都内のマンションの一室と、数百万円程度の有価証券だけ。
 今住むところも3ヶ月以内には出ることを言い渡された。
 それでもよかった。何にも代えがたい自由を私は手に入れたのだ。


 倉木と私はそれからも相変わらず、親しげな素振りを見せることはなかった。
 もうあの悪魔のような男はいない。でも、そのかわりに警察の捜査の目が光っている。
 ここまできて、ぼろを出すわけには行かないのだ。
 私たちの計画は完璧だった。
 倉木と何かを相談したわけではない。ただ私たちは相手の目を見つめるだけで、お互いの心にひそむ意図を知ったのだ。

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