楽しいわが家(2)

 これではいけないとある日気づき、必死に勉強して、ようやくこの生活を手に入れ た。今は毎日が喜びに満ちている。
 実葉と龍太の表情も変わった。おどおどとした目つきではなく、明るく屈託のな い、子どもらしい笑顔。
「ママ、見て。ちゃんとお名前かけたよ」
 実葉が得意そうに見せに来る。
「す・ぎ・う・ら・み・は。わあ、きれいに書けたね。さんじゅうマル!」
 幼いふたりは、画用紙からはみ出るくらいに伸び伸びと描いている。床があちこち クレヨンで汚れているが、それさえも気にならないゆとりが有美には生まれた。
 ピンポーン。
 ドアホンが鳴った。モニターの画面を確かめ、通話口に話しかける。
「どなたですか」
「藤原さーん、○○宅配便です」
「はい、ちょっと待って」
 有美は玄関のドアにチェーンをかけて、スキマ越しに顔が見えないように応対し た。
「ごめんなさい、ちょっとハンコが見当たらなくて」
「あ、サインでけっこうですよ」
 領収書に「藤原」とサインし、包みを受け取る。
 単色の包装。「満中陰志」と書いてあるので、香典返しなのだろう。
「なんだ、タオルだわ。この頃はどこも、紅茶やコーヒーのパックが増えてきたの に」
 不満げにポンと箱を下駄箱の上に置くと、有美はリビングに戻った。
「あ、龍太」
 とうとうお絵かきに飽きたのか、それとも芝生をついばんでいるスズメに興味を引 かれたのか、2歳の息子が窓を開け放ち、庭に飛び出てしまっていた。
 実葉がお姉さんらしく、あわてて叱っている。
「お庭に出たら、だめでしょ。きんじょの人に見られちゃうよ。……ママー」
「あらあら、おまけに裸足で出ちゃったのね」
 前夜の雨でぬかるんでいた土の上で、困った顔をして立っている息子を、有美は微 笑んで見下ろした。
「さっき、お風呂のスイッチ入れたから、もうお湯がいっぱいよ。ふたりでお風呂 入って。きれいきれいしていらっしゃい」
「はあい」
 リビングの磨かれた床に、小さな泥だらけの足跡がぺたぺたとついていくのが、な んとも可愛い。
 ふたりの頭を洗ってやったりしながら、有美は手際よく夕食を整えた。

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